思考の整理学 外山滋比古著 ちくま文庫 1986年刊 書評

「歴代の東大生・京大生が根強く支持する異例のベスト&ロングセラー。刊行から37年で128刷・270万部突破」という出版社のキャッチコピーで購入した人も多いと思う。


社会人でそれなりに活躍している人にとっては、自ら培ったノウハウと重複する部分が多いと思う。
他方、多くの大学生にとっては、大学での勉学への対処法として参考になる部分が随所にあるとは思う。


しかし、”東大生、京大生が根強く支持する”というキャッチフレーズには少し違和感を感じる。単に”読んだ”という事と”根強く支持する”事とは別である。(東大・京大で、この程度の内容で目から鱗の学生がそんなにたくさんいるとは思えないが、買いかぶりすぎだろうか)


とはいえ、自分が実践していたことを著名人といわれる人もすすめていると確認できれば、あらためて自身の行動の自信につながる。その意味で、あまり新しい発見がなくてもざっと一読してみる価値はあると思う。


多分、そういった軽い気持ちで軽く読まれるのが”ベスト&ロングセラー”の理由なのだろう。いわゆる名著とは根本的に違うし、著者もそんなことは期待していないと思う。


結局、本書も一種のハウツー本にすぎず、参考程度に寝転がって短時間に読み飛ばす類の本で、何度も読み返すような本とは違う。気楽に自分の納得できる部分だけを取り入れればよいと思う。


なお、朝食前に一仕事をするのが良いなんて言う主張はお笑い草としても、冒頭の「グライダー人間」でなく「飛行機人間」を目指せなどという主張は軽々にすべきではない。


この手の「自ら思考し、創造する人間を目指せ」というのは、まるで企業の人事部の言いぐさと同じく陳腐このうえない主張。皆が皆、「飛行機人間」を目指す必要は全くない。もしも世の中が「飛行機人間」ばかりになったら、はたして世の中は円滑にまわるだろうか。「グライダー人間」は「グライダー人間」として堂々と生きていけばよい。そういう発想が欠けている点が、本書の最大の問題と言えよう。
2023.4.20