「日本の植民地支配」は「ナチスは良いこともしたのか」と同じ論理の本だった

「日本の植民地支配」水野直樹他著 2011年刊 岩波ブックレット


2011年当時「新しい歴史教科書をつくる会」等による日本の植民地支配を正当化する議論にたいし、一部の歴史学者たちが検証と称して反論を展開する書。  
2023年に刊行された「ナチスは良いこともしたのか」という本と同様、“日本は植民地に良いこともしたのか“という設問に対し、同書同様ほぼ全否定のスタンスをとっている。朝鮮停滞論、韓国併合論、植民地貢献論などを逐一論破、否定していく様は、「ナチスは良いこともしたのか」と同じ手法である。

 

結論としては、同書同様、本書は冷静客観的とは言い難い一方的な議論の書という感が否めない。
たとえば、”朝鮮・台湾に当初参政権が認められなかった”というが、植民地である以上当然ではないかという反論にどう応えるか。
また、”経済開発は日本の利益のためであって、戦後の朝鮮・台湾の経済にたいしなんの貢献もしていない”という主張も言い過ぎ。植民地である以上、日本の利益が優先されるのは当然だが、だからといって植民地に何のメリットももたらさなかったというのはどうなんだろう。経済開発に必要なインフラ整備が植民地にとって何の貢献もしていないとは考えにくい。

 

以上、本書は、かくあるべきという理想論を前提に日本の植民地支配に批判を加えた空論といわざるをえない。

特に、本書について不満を覚えるのは、欧米の植民地政策・支配とその評価との比較が欠落していることである。
日本の植民地政策がいかに他国のそれと比較して異常であったか、過酷であったか、また植民地解放後の対応がどうであったかについて比較、論述することなしには、日本の植民地支配を冷静かつ正当に評価することはできないのではないか。

植民地支配が大国の支配である以上きれいごとばかりであるはずがない。しかし、それが収奪と圧政のみであったというのも現実的ではない。そういう点で、本書は「新しい歴史教科書」派に対する反論を意識しすぎて結果的に自虐論に陥っているが、それ以前に本書は客観性を欠いた認証バイアスにとらわれた書と言わざるを得ない。